補助人工心臓体験記

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【徹底レビュー】国産初の植込み型VAD「エバハート」を使ってみた

【徹底レビュー】国産初の植込み型VAD「エバハート」を使ってみた

復職してから人と接する機会がグンと増えました。
「元気そうでよかった!」「心配したよ~」という言葉には大きなパワーを頂いており、毎日の仕事も楽しくて仕方がありません。

私の職場では機械に興味のある人達なので、補助人工心臓の説明時に具体的な数字での答えを期待されるシーンもあります。
私はエバハートのマニュアルを丸暗記するぐらい読み込みましたが、それでも答えに詰まるような質問に遭遇することもあります。そんな質問にも答えられるよう、独自な視点でエバハートのレビューしてみたいと思います。

この記事は2016/1/5(VAD装着327日目)のリライト記事です

コントローラーの重さと大きさ

私が装着している補助人工心臓エバハートのコントローラーは「C02」というモデルです。
前モデルの「C01」から比べると格段に小さくなっているそうで、大きさは18.0cmm×21.5cm×8.8cm、重量は1.5キロです。

エバハートのコントローラー

HVADやHeartMate3といった他の機種のコントローラーと比較すると明らかに大きいですよね。しかし、エバハートはバッテリーと組み合わせた状態の大きさに特徴があります。

コントローラーの背面

写真のように本体の背面のくぼみにバッテリーがピタッとはまるようになっています。そのためバッテリーを装着してもコントローラーの大きさは変化しないんですよね。

患者側がコントローラーとバッテリーの取り回しを気にする必要もないため、はまるところにバッテリーをはめればいいんです。
はまる場所が決まっているので、バッテリーから伸びるケーブルへのイレギュラーなストレスもかかりません。

このあたりの設計はさすが国産の植込みVADですね、「よく考えられているなぁ」と感じます。

バッグに入れた状態の大きさと重さ

どの機種であってもコントローラーやバッテリーをむき出しで持ち歩かないですよね。
エバハートにも専用バッグが用意されており、その大きさは31.6cm×24.3cm×12.5cmです。
やはり他機種のバッグと比較すると大きいですよね。

エバハートのバッグに隠されたポテンシャル

エバハートのバッグには他機種にはない大きな特徴があります。
それはバッグのサイドポケットにバックアップコントローラーと予備バッテリー1本が格納できるようになっています。

サイドポケットを開けると

予備バッテリーが出てきます。

バッテリー1本の重さは490g(カタログ値)です。

反対側のポケットのファスナを開けると

必要最小限の機能を持ったバックアップコントローラーが入っています。
バックアップコントローラーの重さはわずか200gです。

バッグには充電器以外のシステム一式が入っています。そう考えると非常にコンパクトに効率よく収まっています。

  • コントローラー本体
  • バッテリー2本
  • 予備バッテリー1本
  • バックアップコントローラー

散歩やスーパーへ買い物などの短時間の外出であれば、バッグ以外は手ぶらで大丈夫なんです。
介助者が予備バッテリーやバックアップコントローラーを持ち歩く必要もありません。

本人が負担する重さは中身の詰まったランドセル?

普段持ち歩いている状態の重さ体重計で測ってみました。

5.1キロという重量です。

小学生のランドセルと比較すると重さのイメージが付きやすいかも知れません。
ランドセルメーカーのセイバンでの調査結果では次のように記載されています。


1週間のうち、ランドセルが最も重い日の荷物の重量は、平均で約4.7㎏となりました。さらにここからランドセル本体の重量もプラスされるため、重い日では平均で約6㎏のランドセルを背負って通学していることになります。
学齢があがるほど荷物の重量も増える傾向が見られ、小学1年生では平均約3.7㎏、小学6年生では平均約5.4㎏にまで達しています。

引用元:セイバン
「小学生の荷物が重すぎる問題」。 解決への道は“負担がかかりにくい”ランドセル選びと“背負い方”」より
VAD患者の後ろ姿

エバハートは中身の詰まった小学生のランドセルと24時間付き合うという感じです。(大きさはランドセルより小さいと思います)

長すぎるドライブライン

エバハートの特徴の一つに、他機種よりも長いドライブラインの存在があります。

コントローラーを廊下に置いて、
巻き尺でその長さを測ってみました。

コントローラーから体までの距離は約150cmほどでした。
実際にはドライブラインを背中へ回しているので、刺入部からの長さは200cmくらいあると思います。

ドライブラインの長さがあるので、シャワー浴時はコントローラーを浴室の外に置くことができます。他機種では防水バッグに入れて浴びるそうですね。

ただし、ドライブラインがあるので扉を完全に締めることはできません。冬場は寒いので浴室暖房を利用しています。

置くことが出来るコントローラー

ドライブラインが長いので自室で過ごす時はラックにコントローラーを置いています。
自宅で仕事をしている時はVADの存在を感じることも少なく、就寝時のコントローラーの置き場所も選択肢が広がります。

それでも長いドライブラインには注意することも増えます。
ブラブラしていると何かに引っ掛けてしまうリスクがあります。椅子のキャスターでドライブラインを下敷きしてしまうかも知れません。

しかし、そんな注意が必要であっても長いドライブラインにはすごく助けられています。
ドライブラインの長さは正義!そんな気さえします。

そういえばジャービックのドライブラインも相当長いと思いますが、シャワー時のコントローラーはどうしているんですかね?

バッグに収納できるドライブライン

エバハートの長いドライブラインはバッグ内に収納できるようになっています。

自宅以外では写真のようにドライブラインを収納しています。
収納時には他機種と遜色ないほどにドライブラインの露出を少なくすることができます。

切れないドライブライン

エバハートのドライブラインはケーブルカバーが付属しています。

このカバーは防弾チョッキの生地と同じように防刃性があるそうです。
ケーブルカバーがあることで紫外線によるドライブラインの耐光性の向上にも役立っていそうですね。

それでも長いドライブラインでは捻じれが起こりやすくなります。
電話の受話器を何度も置くと自然と捻じれてしまいますよね?
そんな感じでドライブラインが徐々に捻じれていくことがあります。
就寝前に捻じれをチェックして、その捻じれをとるようにしています。

ドライブラインの太さと中身

手元にあった定規でドライブラインの太さを測ってみました。

直径は約1cm、マッキー極細の太さと同じくらいだと思います。
普段はドライブラインにカバーを装着しているので、この状態のドライブラインを見せる機会はあまりありません。

ドライブラインの中に水?

ドライブライン内にはポンプを動かすための電線、ポンプの軸受け部の冷却、血栓防止のための滅菌水を循環するホースが入っています。

復職時の説明で利用した資料の一部

これは弟が装着していた体外式補助人工心臓のポンプの写真です。
(ポンプが二つあるのはLVAD、RVADの両方を装着していたためです)
ポンプにはダイアフラムが付いており、空気でそのダイヤフラムを動かして血液を循環させています。

職場の方もはじめはコントローラー側にポンプが入っていると思っている方が多かったです、しかし、それも無理のない事だと思います。
(ドライブライン内に血液が流れていると思われていました)

エバハートのメンテナンス作業と頻度

エバハートではクールシールユニットというものが存在します。

エバハートのクールシールユニット

クールシールユニット内の滅菌水は軸受け部から徐々に流れ出ていくので、定期的な補液作業が必要となります。
補液作業が必要となるペースも人それぞれのようで、私の場合は2~3週間ごとに補液する必要があります。

また、循環する滅菌水をろ過するフィルターは3ヵ月毎、非常用バッテリーは半年毎に定期交換作業が必要となります。

コントローラー本体も2年毎の定期交換が必要なため、他機種と比べるとメンテナンス頻度が多いのかも知れませんね。

エバハートの電力事情

エバハートはバッテリーもしくはAC/DCアダプタからの電力で動きます。コントローラーには2本のバッテリーが接続されています。

こちらの写真では左側のバッテリーの電力で駆動しています、バッテリー残量がわずかになるとアラームが鳴りランプが点滅します。
減ったバッテリーを外すと、もう片方のバッテリーに自動的に切り替わります。減った方のバッテリーは満充電のバッテリーと交換しておきます。

渡されるバッテリーの本数と駆動時間

バッグには常時接続された2本のバッテリーとサイドポケットの予備1本を持ち歩くことになりますが、それ以外に3本のバッテリーを渡されています。
この計6本のバッテリーで運用することになります。

ポンプの回転数設定などによって駆動時間は異なるそうですが、おおよそ1本あたり4~5時間くらい動いています。
私は外出予想時間に合わせて、バッテリーを持ち歩く本数を変えたりしています。

両方のバッテリーを抜いてしまった場合

誤って両方のバッテリーを外してしまった場合はどうなると思いますか?
他の機種であれば電源の完全喪失になるので、ポンプが停止します。

そのようなことが起こらないように本人や介助者はしっかりと機器の取り扱いをマスターしてから退院するわけです。

エバハートはコントローラー内部に「非常用バッテリー」という小型のバッテリーが埋め込まれています。
非常用バッテリーは2本のバッテリーの同時故障もしくは両方のバッテリーが外れてしまった場合に機能します。(最大で30分程動くそうです)

30分もあればバッテリーの接続を直したり、予備のバッテリーやバックアップコントローラーへの切り替えも行えます。
ただし、自然故障などのトラブル以外で非常用バッテリーが動作することはあり得ません。
もし故障以外で非常用バッテリーが動作したのであれば、その患者自身の取り扱いに重大な問題があるということですね。

コントローラーは写真のように封印シールがされているので、原則自分でコントローラーの蓋を開けることは許されていません。

エバハートのAC電源駆動

自宅や会社にいるときは、バッテリー駆動ではなくACアダプタを使っています。

一般的なノートパソコンのACアダプタと大差ない大きさです。
アースのある3ピンのコンセントではなく、2ピンのコンセントなので自宅のコンセント工事は必要ありませんでした。

ACアダプタからの電力供給は赤丸部分へ接続するだけで切り替わります。

ACアダプタを接続していますが、バッテリーは充電されません。
バッテリーの充電には別途用意されている充電器を使用します必要があります。
(ACアダプタはコントローラーと充電器の両方で利用できる仕様です)

バッテリー充電器

退院時に2台のバッテリー充電器を渡されています。

充電器はバックアップコントローラーより少し軽く、その重さは約180gです。
(カタログ値:185g)
充電器は滅多に持ち運ぶ機会がありませんが、持ち運びは楽ですね。

充電時の様子

充電器には2本のバッテリーを接続することができます。
バッテリーは片方ずつ充電され、充電が完了すると緑ランプが点灯します。

イシイサトルのエバハート考察

私が他機種と比較してエバハートの方が良いと感じた点がコチラ

  • 電源周りの冗長性が高い
  • コントローラーの置き場所の自由度が高い
  • 周辺機器が小型軽量である
  • 自宅の電源工事が不要である
  • 一つのバッグにシステム一式が収まる

エバハートより他機種のほうが良いなと感じた点がコチラ

  • コントローラーが軽量小型で、肩と腰の負担が少なそう
  • ドライブラインの径が小さく、刺入部の消毒が楽そう
  • メンテナンスの頻度が少なく、通院頻度が少なく済みそう

ドライブラインはなぜ太い?

ドライブラインが細ければ細いほど刺入部の面積は小さくなり、感染リスクも少なくなるようです。しかし、エバハートのドライブラインは他機種よりも太いため、刺入部の面積も一番大きいのではないかと思います。

また、ドライブラインの太さがあるので硬さもあります。
硬さがあることで、ドライブラインの固定位置や刺入部に対する進入角度などの調整が難しく、シビアにも思えます。

なぜドライブラインを太くて硬くしたのかを勝手に考えてみました。

クールシールの安定した流路を確保するために、ある程度の硬さが必要だったと思っています。(点滴のように曲げたり潰れたりで都度閉塞していたら安心して生活できません…)
そのギリギリのラインが直径1cmという太さなのでしょうか?

ドライブラインはなぜ長いのか?

エバハートは国産の植込み型補助人工心臓で、日本の生活環境をもとに設計されているようにも思います。私はそんな日本人の生活の質を考慮してドライブラインを長くしたのではないかと思いました。

この辺りは開発者の方に直接お聞きしてみたいですね。

私は体外式補助人工心臓の時代に触れていたこともあったので、エバハートを装着してみて医療機器の進歩スゲ~!と思いましたよ。

でも、正直なところもっと小型だと嬉しいです。
肩ではなく腰が痛いです。

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