補助人工心臓体験記

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僕が感じる『国内心臓移植待機者の現状』

僕が感じる『国内心臓移植待機者の現状』

僕のVAD生活では多くの仲間との出会うことができました。
その中で色々なことに触れて学ぶ機会をいただきました。
まず、多くのVAD装着者は心臓移植までたどり着くことができるという事実があります。
VADを植え込んでから社会復帰されてご結婚される方もいらっしゃいます。

しかし、一方では長期に渡って入院をされている方、職を失った方、精神不安に悩む方、脳出血や感染などの合併症と闘っている方などがいます。また、それを支える家族にも大きな負担がかかっています。その先には共倒れや家庭崩壊という未来も存在します。
僕たちは何のために心臓移植を受けるのでしょうか?

僕が感じる心臓移植の現状

現在、日本臓器移植ネットワークがWebサイトで公表している移植希望者の平均待機年数では、心臓・心肺同時移植者は平均1,137.3日(約3年1ヶ月)と記載されています。
しかし、この数字は臓器移植法が施行された1997年10月から2018年12月の間に心臓移植を受けられた方達の延べ平均待機年数であることに注意してください。

心臓移植 レシピエント待機期間

以前に作成した『レシピエント待機間』のグラフ

心移植(心肺同時移植含む)320件中、年毎に移植を受けたレシピエントの平均待期期間は、改正臓器移植法施行前が896.4±633.3日、改正臓器移植法施行後が1,141.0±1,130.1日であり、t検定にて有意差(p<0.05)が認められた。

引用:日本臓器移植ネットワーク 臓器提供・移植データブック2017 162ページより

心臓移植待機者の数は植込みVADの普及に伴って年々増加傾向が続いており、2021年3月31日時点では918名の方が心臓移植希望登録されています。
僕もその内の一人です。

心臓移植件数と移植待機者の推移

すこし想像してみてください。
この直近3年間で心臓移植を受けられた方達の平均待機年数を算出したらどのような数字が出てくるでしょうか?
そこに希望はあるのでしょうか?

2017年8月、JOTの門田守人理事長は「現在、年間100件程度の臓器移植を5年後には1000件まで増やしたい」と言いましたが、もうすぐその5年後を迎えます。今の状況はいかがでしょうか?

これは既に国民、JOT、医療機関の問題ではありません。
これは「政治判断の問題」です。

僕は政治に関することをあまり口するタイプではありませんが、この件に関しては口を閉ざしているわけにもいきません。
政治が動かないのであれば、国民が動かすしかありません。
でも、僕には動かす方法も知らなければ力もありません。悔しいです。

なぜ、僕は悔しいのか?

僕も沢山の友を失いました。
だから悔しいのです。
けれでも本当に悔しいのは待機者本人とそのご家族です。


以降は2017年12月29日に公開したブログ記事「<シェア・拡散希望>国内心臓移植待機者の現状」の全文になります。


<シェア・拡散希望>国内心臓移植待機者の現状

僕は今、とてつもなく気持ちを奮い立たせてブログを書いています。
「私が書かずして誰が書く!」そのような強い想いがあり、国内心臓移植待機者の現状を書かせていただきました。
臓器移植待機者の現状が少しでも良い方向に進むよう願っています。

もっと早く移植ができれば

この言葉はご家族の言葉であり、私自身の気持ちでもあります。
先日、僕の大切な仲間が亡くなられました。
この記事を書くべきかとても悩みましたが、私の信念を貫き通します。

皆で共に
考え、学び、喜び、悲しみ、支え
それぞれの道を歩む

VADを装着して生きる

補助人工心臓体験記のブログでは取り上げていませんでしたが、今月中旬に発売された読売新聞の「医療ルネサンス」で彼のことが取り上げられました。私もその新聞を大事に保管しております。

該当記事【臓器移植法20年】生きたい(2)目標「教室で講義受ける」

心臓移植を待つ早大生 大樹さん 無念の死

本日、医療ルネサンスヨミドクターにて追悼記事が出されました。
あの記事とのギャップこそが、今の日本に存在する臓器移植待機者の現状の一つなのです。
彼は先日自宅で亡くなりました。

該当記事心臓移植を待つ早大生 大樹さん 無念の死

彼とは実際に交流のある仲間であり、私の活動が継続している理由の一つでもありました。(その理由については後述します)

訃報が届いたとき、私は偶然にも彼の近くにいました。
霊安室で彼とご家族にお会いしました。
私は横たわる彼の姿を目にして筆舌につくしがたい「悔しさ」が込みあげ、その気持ちは今も続いています。

報道されない「本当にギリギリな日々」

記事に掲載されているとおり、彼は就寝中に亡くなりました。
記事からは「予期せぬ出来事だった」との印象を受けるかもしれませんが、私は彼がこのことも想定して日々を過ごしていたのだと感じます。
そのことはお母様からの言葉からも読み取れました。

鳴らなかったもう一つのアラーム

VAD(補助人工心臓)のシステムに異常がおきればコントローラーからアラームが鳴ります。
一方で、VADが原因ではない異常事態が発生した場合は鳴動しないこともあります。例えば脳血管障害などもその一つです。
私は自分しか分からないような症状が出たときのために、他者に異常を知らせるためのコールチャイムや防犯ブザーを手元に置いています。
もちろん就寝時にも欠かしません。

お母様よりお伺いした話では彼も同じようにコールチャームを手元に置いて就寝していたそうです。
VADを装着した心臓移植待機生活では「いつ何が起こる分からない」という状況があります、彼も最良な対応がとれるよう日々の生活を工夫していたことでしょう。

しかし、コールチャイムという「もう一つのアラーム」は鳴らなかったとのことです。
お母さまが気が付いた時にはベッドで眠りについているかのような状態で冷たくなっていたそうです。

世間では移植待機者が前向きに生きていることにフォーカスされた記事が多くある印象ですが、記事中の文字から感じとることが難しい「本当にギリギリな日々」を過ごしています。

違和感のある報道

多くの病気で生存率や死亡者数などを引き合いに出して、予後を表現する場合が散見されます。
読み手が理解していればよいのですが、その数字が独り歩きしている状況が蔓延しているようにも感じます。

ある記事を引用させていただきます。

10年中に日本臓器移植ネットワークに登録した心臓移植の待機者は162人でしたが、16年には556人。この年、待機中に亡くなった患者は35人に上りました。植え込み型の補助人工心臓に保険が適用され、多くの人が自宅で生活しながら待てるようになったことが、待機者数の急増につながりました。今年はさらに増え、11月末時点で653人となっています

「待機中に亡くなった患者は35人」と記載されているが、待機者数と亡くなった患者数のギャップでは現状を表現することは難しい。
亡くなった35人以外が、生前の大樹君のように生活している訳でもなくギリギリな状態で待機している方も多く存在します。

そもそもなぜ彼は亡くなったのだろうか?
それは日本で臓器移植が普及しているとは言い難い状況だからではないのか?

大樹君がお亡くなられたその日、私はもう一人の心臓移植待機者とお会いしました。
もう一人の彼は一般病棟ではない病室で移植を待っているため、しばらくは顔も見れていませんでした。
今回は特別に会うことができましたが、彼も本当にギリギリな状況で心臓移植を待っています。
彼は4年以上待っているが、その日々の多くが過酷を極めているとのことで、本人だけでなくご家族も同じようにすり減っています。
私は少しでも早くご縁があることを心より祈ることしかできません。
話を聞くことしかできない僕の力の無さがとても悔しいです。

日本における臓器移植医療の現状についてもっとリアリティを持って報じていただきたいと感じる時があります。
本当に今の報道で臓器移植のコンセンサスを得られるのだろうか?臓器提供意志表示が増え、実際に助かる人が増えるのか?
彼の20年という生涯に少しでも報いるためにこのブログ記事を書きました。

大樹君へ ありがとう

大樹君と初めて会ったのは誰でもVAD交流会などを主催する前のことでした。私はVADを装着した大樹君に初めて声を掛けたときに無視されました。その時は大樹君が心をふさぎ込んでいることを知っていたこともあって、それ以上の深追いはしませんでした。

時が経ち、VAD交流会の準備をしていた際に一通のメッセージが届きました。
本当に驚いたことを今でも鮮明に覚えています。
彼からのメッセージ内容を抜粋します。

今年3月に高校を卒業した18歳です。
外来で何度かお会いしたことがあるかと思います。ブログを拝見しました。大変な思いをしているのは自分だけではないんだと感じ、勇気をもらいました。
VAD交流会に参加したいと思っているのですが、今からでも間に合いますか?

そして本当に交流会に来てくれたのです。
ある日、大樹君が変わりはじめたという話を耳にしました。
私はにわかに信じることができませんでしたが、徐々にそれが本当だということを感じることができました。

私は当事者間の交流がいかに大切かということを実感することができました。彼の存在が「この取り組みは続けていこう!」と決意させ、不定期ながらも交流会を継続している次第です。

大樹君はその後の交流会にも参加してくれて、みるみると前向きになり笑顔が増えていく彼を感じることができました。そして、第5回誰でもVAD交流会にて私の目頭は熱くなりました。まさに読売新聞の記事に掲載されているとおり、大樹君が決意表明して更に先に歩み始めたのです。

そんな彼が亡くなってしまったことは本当に残念でなりません。

彼の夢が実現してほしかった。

もう少し早く移植が受けられていたら。 

現状を少しでも良くしたい

現状を少しでも良くしたい。ただ、それだけです。
しかし、私にはそれを出来る方法を知らなければ力もありません。

私は大樹君と同じように心臓移植待機者であり、やれることには限りがあります。それはいつ途切れるかもわかりません。表面上はとても順調そうに見えても私も「ギリギリな生活」を送っています。
この記事を書いている今の状況もギリギリなのです。

一人でも多くの方にこの事実を知っていただきたい、この記事をシェアいただけたら幸いです。


これ以上、仲間を失いたくはありません。


この記事の著者

Satoru Ishii
この補助人工心臓体験記の運営者です。

僕は拡張型心筋症で2015年2月にエバハートを埋め込み、心臓移植待機者になりました。
僕もいつかはVADを卒業する日が訪れます。
僕が成し遂げたいことは後継者を作ることではなく「当事者が声を上げていいんだよ」という雰囲気作りです。
これから先も地道に発信していきます。

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